ぼくのヒーローR2 第20話 さいしょう


「やあユフィ。元気そうだね」
「シュナイゼル兄様!?」

兄の突然の来訪に、ユーフェミアは驚き跳びはねるように立ち上がった。
宰相を務めているこの兄がエリア11に来る報告など聞いていない。
どうしてここに!?と、驚いていると、ロイヤルスマイルを浮かべたシュナイゼルは、信じられないことを口にし・・・ユーフェミアはこのまま失神するのではないかと思うほど、目の前が真っ白になった。



もし、拒否した場合。
周辺に配置しているブリタニア軍を突入させる。
シュナイゼルはそう言った。

「馬鹿かテメーは。そんなもん、お前を人質にすりゃなんとでもなるだろうが!」

玉城にしてはまともな意見をいうと、藤堂達も同意を示す。そんな状況でもロイヤルスマイルを絶やさないシュナイゼルは、あっさりと手の内をさらした。

「もし、私に危害を加えた場合、ゼロの大切な姫君の身の安全は保証しかねる」
「はぁ?ゼロの大切な姫って誰だよ?」

わけわかんねーこと言ってんじゃねーぞ!と、玉城は絡んだが、藤堂は一瞬で顔色を変え、これはまずいと口を開いた。

「ゼロの大切な姫を、知っているということか」

硬い声で確認する藤堂に、集まっていた四聖剣は以前C.C.の話に出ていた「ゼロの大切な人」を思い出した。
ゼロの逆鱗は3人
一人はC.C.、一人はスザク。もう一人が、この姫なのでは。
もしその存在が失われれば、ゼロは生きることさえ辞めるだろうと言われている、ゼロにとっては命よりも大切な存在。ブリタニアに奪われ人質に取られれば、ゼロは黒の騎士団を捨て、ブリタニア軍に膝をつく事になると言われている人物。
それだけの切り札があるからこそ、ブリタニア帝国のNo2であるこの男はこうして堂々と乗り込んできたのだ。「何の話だ!?」と、藤堂に聞こうとする玉城を仙波が止めた。不満気な顔をした玉城だったが、不穏な空気を感じ、これはもしかしたらヤバい話じゃないか?と悟り口を閉ざした。

「もちろん、知っている。先ほど会ってきた所だよ」
「信じられんな」

ハッタリの可能性はある。
だが、次の言葉で真実だと悟った。

「本国に連れ帰り、腕の良い医者に見せるつもりだよ」

連れ帰り。
医者。
そのワードが迷わず出てきた時点で、ナナリーを示していることは明白だった。
つまり、ゼロがルルーシュだと気づいている。
二人は鬼籍に入っているとはいえ、年齢を偽るわけでも、容姿を変えているわけでもない。だから、生きていると悟られた時点で、この宰相なら隠れ住む場所を見つけることなど容易いだろう。

「なるほどな。あの子の居所を突き止めたわけか」

女性の声が、辺りに響いた。
靴音を鳴らし近づいてきたのは黄金の瞳の魔女C.C.。

「初めましてお嬢さん。君がゼロの愛人かな?」
「久しぶりだなシュナイゼル。残念だが私とお前は昔会っている」
「会っている?私と?」

この時、初めてシュナイゼルの表情が変わった。胡散臭いロイヤルスマイルはそのままだが、一瞬だけ眉を寄せ、目を細めたのだ。だが彼女の姿が記憶に無いため、動揺させるためのものだと判断し、また胡散臭い笑みに戻った。こちらに隠しきれない敵意と殺気を向けているくせに、それを微塵も見せない微笑み。
それがどうにも気色悪く、C.C.は眉を寄せた。

「まあ、覚えていないだろうな」

なにせ、まだ幼かったから。
ギアスの因子を調べるため、シャルルの子供たちは全員ギアス嚮団の研究施設で検査を受けている。その時に会っていたが、神童ともてはやされていても物心付く前は流石に覚えていないらしい。

「それで?ブリタニアの宰相がゼロに何のようだ?」
「ゼロ以外に聞かれては困る、とても大事な話だよ」

挑発的な物言いに、C.C.は見定めるようにシュナイゼルの目をじっと見つめた。出自に絡んだ内容であれば、ここで話されても困るのはゼロも同じ。

「会わせるとでも?」
「会う以外の選択はないのでは?それとも、彼女を連れ帰っても?」
「本当に見つけたのか?あの子を」
「考えればすぐに分かることだよ。あの子たちが生きていたのならね」

スラスラと紡ぎだされる言葉に、確かにそうだなとC.C.は頷いた。
マリアンヌの後ろ盾だった者、二人の死亡を本国に伝えた者、どちらもアッシュフォードだ。そのアッシュフォードは戦争が終わってすぐに日本へ渡り学園を作った。いくら爵位を剥奪されたとはいえ、ブリタニアの植民地に真っ先に入ることを選んだのだ。
亡くなった二人の事を思い、二人が命を落としたこの国に骨を埋める覚悟だという話ではあったが、二人が生きていたならば、この国から正規の方法では出ることの叶わない二人を守るために移り住んだと考えるほうが自然。いや、生きていたと知られた時点で、アッシュフォードが死を偽装し、国を騙していた事が確定している。

チェックメイトだなと、C.C.と藤堂は理解した。
シュナイゼルの兵の規模は解らないが、まだこちらにはコードとギアスがある。
ここから逃げ出し、ナナリーを救い出すことは可能だろう。
なにせ、No.2でがいるのだから、傀儡にすればいい。
そのためにも、人目の付かない場所でルルーシュと会わせる必要がある。

「いいだろう、ゼロに会わせよう」

C.C.の言葉は、ゼロの頭が抑えられたことを示していた。
言葉を無くした面々をその場に残し、C.C.は誘導するように歩き出した。
その後を、シュナイゼルがついていく。

「ところで、この場所をどうやって知った?」

後ろを振り返ることなく、質問を投げかけた。
一番可能性があるのは、スザクだ。
つけてくる相手を撒いたりはしているようだが、絶対に大丈夫とは言い難い。いや、顔の割れている藤堂達も出歩いていたし、玉城だって買い出しに出ているから、全員に可能性があるのか。

「なに、簡単なことだよ」

シュナイゼルは楽しげに言ったが、それ以上は口にしなかった。
方法を教えれば、次のアジトでルルーシュはその対策を施す。そうなれば見つけるのは困難になるだろう。だから、どうやったかは、教えるつもりはないのだ。

「枢木准尉ではないことだけは、彼の名誉のために教えておこう」

スザクが出入りしていることも知っていたか。

「そうか」

C.C.は動揺一つ見ず答えた。
この様子ではギアスのことは知らないだろう。
なら問題ないと、ゼロが休憩しているカラオケボックスの一室へ向かった。

今日は日曜日。
学園は休みだった。
連日スザクとユーフェミアの勉強のため資料を作成し、疲れきっていたルルーシュはその部屋で熟睡していた。・・・ルルーシュだけではない、そこには同じく連日の勉強で疲れきっていたスザクがいて、添い寝をしていた。
扉を開けても目を覚ますことなく熟睡し、幼いルルーシュを抱きしめて眠るスザクを見て・・・シュナイゼルは表情を固まらせ立ち止まった。
ふむ、成程やはり兄弟だなとその様子を観察してから声をかける。

「いいから入れ」

入り口で固まったシュナイゼルを室内に引き入れると、C.C.は部屋の扉を閉ざし、施錠した。その物音で目を覚ましたスザクは、ルルーシュを起こさないよう身を起こした。

「・・・どうしたのさ、C.C.」

うるさいよ、と言いながらぐっすりと眠っているルルーシュを抱えて・・・入口でものすごい形相で睨みつけてくる人物に気が付き声を無くした。こんな荒れ果てた地下にいるはずのない人物が、ものすごく腹を立てているという表情でこちらを睨みつけてくる。それは、どうみても宰相であるシュナイゼルだった。

・・・まだ夢のなかなのだろうか。
あの常に笑顔なシュナイゼルが睨んでいるし、これは悪夢だろう。 でも、腕の中のルルーシュは温かいし、重さもあるし、あれ?と、混乱していると、ルルーシュがむずがりだしたので、これまた反射的にあやした。それが気に入らないと、ますますシュナイゼルに睨まれた。

「おい、ルルーシュを起こせ。見ての通り少々問題が起きた」

よく見ればC.C.もいた。
もしかしたら夢じゃないのかもしれない。

「・・・問題って、大問題じゃないか。ルルーシュ、起きて。」

ようやく現実だと受け止めたスザクは、ルルーシュを起こした。
疲れきっていたルルーシュはなかなか起きなかったが「・・・うるさい、ばかすざく・・・」ともぞもぞと動き始め、瞼をこじ開けると、眠い目をこすりながらその親友を見、焦った表情に何なんだと視線を移動させ・・・予想通り硬直した。
わかってた。
イレギュラーに弱いルルーシュが、この状況で思考停止させないはずがない。
硬直したルルーシュを抱え直したスザクは、一時的にでもシュナイゼルが視界から隠れるように、今まで使っていた毛布をルルーシュにかぶせた。
・・・いや、ルルーシュに見せたくなかったのではなく、本能的に自分のものを隠したのだ。ルルーシュを見せたくなくなかったから。
可愛いルルーシュが隠れた事でシュナイゼルは不愉快げにスザクを睨む。
その視線は敵意と殺気と嫉妬が入り混じったもので、ナナリーに馴れ馴れしくする男子生徒を見た時のルルーシュに似ていた。
コーネリアはシスコンで、対象はユーフェミア。
ルルーシュもシスコンで対象はナナリー。
・・・もしかしたら、ブリタニア皇族は全員シスコンでブラコンなのかもしれない。
だとすれば、間違いなくシュナイゼルはブラコンだ。
視線の中に、ルルーシュとコーネリアからは感じられなかった奇妙なものを感じはするが、きっとブラコンに違いないと結論づけた。

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